ガランシブ王国の都、ある小さな寝室で、王妃は命の灯を今、吹き消そうとしていた。
傍らには、200年連れ添った彼女の夫がいる。
小さな、しかし細部までこだわり貫かれた部屋にいるのは、二人だけ。
出会った時からほんの少し、目尻に皺の増えた王を見て、王妃は微笑んだ。
「...そんなに泣かないでください。私はとても幸せだったのですから」
「ナタリー......」
「私のために泣いてくださる人がいて。貴方が私を拾ってくださって。本当に、本当に幸せ者です」
王妃のかさかさに乾ききった手に、透明の滴がぽとり、と落ちた。
本来なら300年生きたはずの王妃の命の水は、涸れつつあった。
少女期の身体の酷使が、このような結果を招いたのだろう。
「......君がいなくなれば、私はどう生きたらいい?いかないでくれ、ここにいてくれ、頼む...私のために」
「...貴方のために、と言われたらまだ生きたくなる私も、ちゃんとここにいます」
国王は、皺ができる前に逝ってしまう妻の手と頬に触れる。
ずっと昔から、そうしてきた。
こうしたら、二人とも安心できた。