「大丈夫?本当に変なことされてない?」


心配してくれる晴夏には悪いけど、知らない人にいきなり押し倒される
こと自体がじゅうぶん変なことだ。まあキスされたわけでもエロい意味で
体を触られたわけでもないので、晴夏には大丈夫だよ、と返事をして
おいた。



それからというもの、谷口先輩をはじめとする2年生がすれ違う度に
やたら私たちに構ってくるようになった。先輩たちの間でも谷口先輩が
他のファンの子と間違えて私を押し倒した、ということは知られていて、
なぜか女の先輩にまであかりちゃん、と呼ばれるようになってしまった。

私も最初は谷口先輩のことを要注意人物として警戒していたけど、同級
生には感じない大人っぽさと寛容さ、そしてほどよい緩さが少しずつ
私の彼に対する警戒心を解いていった。






「ねえ純希先輩、谷口先輩ってどのくらい彼女いないんだっけ?」


「ん-、去年の夏ぐらいからはもう誰とも付き合ってないと思うよ」


「それって本命ができたってこと?」


「さあねー、そういう肝心なことはアイツ俺らにもいわねーし」


晴夏や周りの友達から見ても、谷口先輩は適当に女の子と遊ぶことも
なくなり、揉め事を起こすこともなくなったらしい。私は晴夏と純希
先輩が近くでこんな話をしているなんてことも知らず、谷口先輩の
スマホに入っているゲームを借りてのんきに遊んでいた。


「うちの姫は鈍いから、先輩も苦労するかもね」


気づいてないのはあかりくらいだろ、と純希先輩は苦笑いした。