素直になれない私たち


「よく覚えてるね」


「覚えてるよ」


そういうと、翔平はケーキを食べる手を止めた。私は目の前にある
ケーキを食べながら、翔平がさっきの話の続きをしようとしている
ような気がした。


「忘れるわけないだろ」


真っすぐに私の方を見てくる翔平をはぐらかすかのように、私は
紅茶のカップを手に取って残りを一気に飲み干した。そして翔平が
あかり、と私の名前を呼んだ時、私はその先の言葉を遮った。


「知ってたよ」


今度は私が翔平の目を真っすぐに見つめる。たぶんいつもより瞬きが
多くなっているような気がした。いおうとしていた言葉を飲み込んで、
翔平は次に発する言葉を探しているようだった。でも相応しい言葉が
見つからず、ありきたりな返事をするしかなかったみたいだ。


「...なんで」


「見てたから」


不思議な光景だった。感情が表に出がちな私は今とても冷静で、
いつもクールな翔平が目を大きくして動揺しているように見える。
無理もないか、私は今河野さんと翔平がキスしていたのを見たよ、
といっているんだから。