スタバの店内はクリスマスイブで週末なのもあって、人が多く、カップルや家族連れで賑わっていた。
レジ前も注文待ちの行列がズラッと出来ていて、二人一緒に並んで待つには少々狭く、他のお客さんにも迷惑がかかりそうだった。

「美咲ちゃん、何飲む? 俺が買っとくからさ、先に座って待っててくれる?席、空いてそうかな?」
そう言われて、私はイートインスペースを見渡した。
混雑の割にイートインスペースには何席か余裕があった。

「空いてる席見つけたので、座って待っておきますね。あ、私は抹茶クリームフラペチーノのトールでお願いします。」
まだ緊張が溶けず、うまく声が出ないが何とか話せた。
「OK!じゃ座って待っててね」

私はどこの席にしようか迷ったが、窓辺の角にボックス席が空いてるのを見つけ、そこに座ることにした。
そして店内が見渡せる側に座り、レジ前で順番を待つ彼をこっそり観察してみる。

やっぱり185cmくらいあるよなぁ。
頭1個分みんなより飛び抜けてるし。
めっちゃスタイルよ!
脚長っ!八等身?九等身?
あれって、ジャージ生地のスーツ?
濃紺のスーツの下に白Tシャツ着てスニーカー履きって。シンプルなのにかっこよ!着けてるピアスとかネックレスも凄くセンスいいし、、
何より右手の親指にはめられた太めの指輪がめちゃめちゃ様になっててカッコイイ!

マジ芸能人とかモデルさんみたい♪

(ヒソヒソ)……あれ誰?……めっちゃイケメンやん……モデルさんかな?……こっち見たよ!カッコイイ!……(ヒソヒソ)

当然だけど、みんな女子たちが見惚れてザワついてる。。


私、こんな人とデートしてえんやろか。。
きっとビジュアル釣り合ってない。

そりゃ、どうせなら思いっきりスパダリなモテ男子と愛されデートしたいとは願ったよ。
願ったけれども。。。

何?!
この状況。
あまりにまんま過ぎないか?
大丈夫かな?

そんなことを考えながら彼を観察していたら、ちょっと落ち着いてきた。
少し緊張も解れ、徐々に冷静になってきた。

「お待たせ!結構時間掛かったね〜。大丈夫?ここ窓辺だけど寒くない?あ、フラペチーノ飲むくらいだから大丈夫か!あはは」

「はい、大丈夫です」と私は笑顔で頷いた。

「お!やっと笑ってくれたね。つうかさ、敬語やめない?俺今日美咲ちゃんの彼氏だし。彼女が敬語とか普通使わないでしょ?ちょっと距離ある感じで寂しいじゃん。それと俺のことは冬馬って呼んでね」

「あ、じゃあ冬馬さん・・・」

ん?違うんじゃない?とばかりに彼が少し首を傾ける。

「・・冬馬・・くん・・」

「ん〜!ま、オッケ! あ、じゃあなんで俺がここにいるか説明するね!」

社長、、もとい冬馬くんの説明によると、本来来るはずだった三上さんはこちらに来る途中で衝突事故に巻き込まれ、病院へ行く羽目になったと。怪我は大したことなく、無事ではあったけれど、大事を取って一泊入院することになったため、冬馬くんに連絡。他の演者スタッフも出払っていて、今動けるのが自分しかいなかったから、急遽演者としてきたとのこと。

「三上さん、ご無事で良かったですね!フェラーリ見たときはすっごいビックリしたけど、納得しました。そんな事情ならキャンセルしてもらっても良かったのに。。なんか申し訳ないです。すみません!冬馬くん、無理してないですか?本当は友達とか彼女さんと予定があったんじゃないですか?」

「ん?ん?美咲ちゃん。今なんかおかしな事言わなかった?今日俺は美咲ちゃんの?」

「・・・あ、彼氏です・・・」

「だよね!俺のことは大丈夫だから気にしなくて良いよ。今日は美咲ちゃんが主役なんだし。めっちゃおしゃれもしてくれて、俺はこんな可愛い彼女とデート出来て嬉しいよ。色々気遣ってくれてありがとね!」そう言って彼はすごく優しく微笑んだ。

いやー、だいぶ彼と冷静に話せるようにはなってきたけど、、、

何?!そのサラッと出てくる甘々なセリフ!
そしてそのイケメン顔から繰り出されるギャップあり過ぎな可愛い笑顔!

ムリ!ムリ!ムリ!

眩しすぎです!
もはや罪!テロだ!!


「それと敬語!また使ってるし〜」
そう言って私を指さしながら、いたずらっ子のような表情で顔を覗き込んできた。

ゴンっ!「痛っ!」

私は彼の行動に思わず目を閉じ、のけぞって、後頭部を後の窓ガラスにぶつけてしまった!

「おっと!すんごい音したけど、大丈夫?痛かったでしょ?」
心配そうにこちらを見つめる。

「うん、、痛いけど、大丈夫。」
嫌だ!もう〜恥ずかしすぎる(TдT)
痛いのと恥ずかしいので、私は頭を両手で抱えながら、うつ伏せた。

もう〜!
何度もあなたが私の顔を覗き込むからです!!

ん?つか、私もしかして冬馬くんにからかわれてる?わざと覗き込んでる?


「じゃあ、そろそろレストランに移動しよっか?車持ってくるから、表で待ってて!」
「うん」

私はコートを羽織り、身支度を整えてから、店を出た。
スタバの入口付近にあるベンチに座って彼を待つ。

はぁ( ´Д`)=3
なんかスタバだけでめっちゃ疲れた気がするわ。
さっきぶつけたとこ痛いなぁ。ジンジンする。。。

冬馬くん、モデル並みのお顔立ちとスタイリングで高身長!
しかも大人の余裕みたいなのあって、めっちゃ優しいし、社長だし。
本気でスパダリ過ぎんか?

偶然とはいえ、贅沢すぎる。
でもでも、、
せっかく張り切っておしゃれしたんやし、お金払って来てもらってるんやから、落ち着いて楽しもう!うん!

あ、そういえば浮かれ過ぎて忘れてたけど、飲み物代払ってないや。
たしか、デートで掛かる実費はこっち負担ってメールに書いてあったよね?


10分後、冬馬くんがフェラーリと共に戻ってきた。
私の目の前に停車したので、乗り込もうかと一歩足を出したところで、冬馬くんが手に持った何かをポケットにつっこみ、車から降りてくる。
ん?どしたんだろ?

「お待たせ〜!美咲ちゃん。そういえば、頭打ったとこ大丈夫?たんこぶ出来てない?」
「あ、うん。まだ少しジンジンするけど、たぶん大丈夫」
「マジで?派手な音したもんね。ちょっと俺に見せて!」
そう言って、私を自分の胸元へ引き寄せ、私の頭の上から後頭部の髪をかき分けようとする。

私は「あっ!」と小さく声を上げ、思わず彼の両手首を掴んで制止した。

「ん?どした?痛いところに当たった?それとも髪の毛触られるの嫌だった?」
と首を傾けながら私を覗き込む。

やっぱりこの人、色々と距離感がおかしい。
いくらレンタル彼氏って言っても、今日初対面だよ?
なんでこんな普通に恥ずかしげもなくこんなこと出来るん?

「えっと、、、嫌じゃないけど、みんな見てるし、恥ずかしいです。。」

彼の手首をとっさに握ってしまったことと私の頭に彼の指先が触れている事を自覚し、自分でもハッキリわかるぐらい顔が真っ赤になっている。
本当に恥ずかしくて顔が上げられない。

「あ、ああ、ごめん!心配だったから」
「え?」
「さっき、ホントに痛そうだったし、たんこぶとかキズになってないか心配で。。俺に触られるのが嫌だったら、自分で触ってみて!」

彼にそう促されて、自分で後頭部を触ってみる。

「えっと傷にはなってないと思います。触ると痛いし、やっぱちょっと腫れてるかも」
「ごめんね!俺のせいだよね。美咲ちゃんの反応が可愛いから、ついつい…。ちっちゃいアイスノン買ってきたんだ。これ、頭に当てときな!」
そう言って、ポケットからタオルに包まれた小さな保冷剤を美咲に渡した。

「あ、ありがとう。」

なんなん?さっきポケットに突っ込んでたのこれ?で、今の間に買ってきたの?

「あ、それとこれ、ホッカイロも。保冷剤持ってると手が冷えるでしょ?」

は?
なにその細かい気遣い〜!
ヤバくない?

物腰からして凄く女慣れしてるのは分かるのに、不快感を感じない。
むしろ凄くもてなされてる気がする。
ただのモテメンじゃないよね?
この人、マジ何者?!

「あの、、、心配掛けてごめんなさい。スタバの飲み物代とかこれ(保冷剤)とかお金払います。なんか色々ごめんなさい」
「ん?」