隠れ御曹司の愛に絡めとられて


「私は話すことなんてないの。もう電話してこないで!」

『俺は、』


孝治が何かを話しかけていたけれど、私はそんなことは構わずに通話を終了させた。

今さら何も聞きたくない。

話の内容だけでなく、もう、声すらも聞きたくない。


そもそも本当になんで私の携帯番号を消してなかったのか、謎でしかない。

私を振った時に消しといてよ。

その程度の決意だったの?

ほんと呆れる。


はぁ、とため息をつく――よりも前に、もう一度孝治からの電話がかかってきて……。

コール音が鳴り響く中、私は今度こそ大きなため息をついた。

応答せずに通話を切る選択をして、ついでにスマホ本体の電源も落とす。

私がもう電話に出ないと分かれば、孝治も諦めるだろう。

電源が入っていないから他の電話やメッセージの類いも受け取れないけど……それはもう仕方ない。


「……」


仕方ない、と思った次の瞬間、メープルくんのことを思いだして、あぁ彼からの電話も取れないな……なんて思いが浮かんでしまい……私は慌てて頭をブンブンと左右に振った。

べつに……メープルくんからの電話なんて、待ってないしっ。

そもそも昨夜会ったばかりだし、彼が電話をかけてくる理由もないはずだ。

ほんの少し胸の辺りがモヤモヤしたけど、しばらくはスマホの電源を落としたままにしておくことにした――。