「……あ」


玄関から丸見えのキッチンと廊下を兼ねた床には昨夜メープルくんがくれたお土産の箱が置かれていて、そう言えばその中には「パンに塗ると美味しいよ」と彼が言っていたマロンペーストが入っていたな、と思い出す。

彼は「近所のとても美味しいパン屋さんで買ったバゲットもお裾分けするね」と親切にバゲットも入れておいてくれた。

ありがたい。

さっそくそれをいただこう。

お湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れ、適当な厚みにスライスしてくれていたバゲットにマロンペーストを塗りたくって、ガブリとかじりつく。


「……おいしっ」


朝からしあわせせな気分になる。

胃袋が満たされれば心も満たされる。


それと同時に、やっと、昨夜のことが夢ではないのだと実感した。

キラキラと輝く大都会の夜景を彼と見たことがあまりにも現実味がなくて、なんとなくどこかであれは夢だったんじゃないかと思ったりしていたから……。

彼がくれたたくさんのお土産が入った箱はちゃんと今私の目の前にあって、昨夜のことが現実だったのだと教えてくれている。

真冬の夜風は冷たかったけれど、夜景が綺麗だった……多分。

ぼんやりとしか覚えていないのは、彼が私を無駄にドキドキさせたせいだ。


はぁ、とため息をつく。

一体何のつもりなんだろう、彼は……。


テーブルに置いているスマホへ視線を移す。

今日の天気予報でも調べようかと思いそれを手に取ったところで、着信音と共にバイブレーションし始め、パッと着信を示す画面が表示された。