時刻はもう日付を超える頃――。
「えっと、そろそろおいとましようかな」
「あれっ、もうこんな時間? 亜矢さんといると時間が経つのが早いなぁ」
眉をハの字に下げて残念そうに私を見つめている。
ああ、犬のメープルも、「もう遊びは終わりだよ、テスト勉強しなきゃいけないから」って言うと、こんな風にちょっと寂しそうな表情で私を見つめてたな……。
犬のメープルと人間のメープルくんが重なって、なんだか切ない気持ちになる。
帰りたくなくなるから、その顔しないで。
「ねえ亜矢さん。今日、泊まっていかない?」
「えっ……、な、なに言ってるの……っ?」
「だって、帰って欲しくないから」
「……だっ、ダメに決まってるっ」
「えーっ。残念っ」
しゅんとしながらも、笑ってるメープルくん。
絶対、本気で言ってない。
危ない、うっかり騙されるところだった。
そう言う手でお客の女の子たちを繋ぎ止めてるんでしょ!?
私はその手には乗らないもんね!
「……か、帰りますっ」
「あーあ、残念。まあ今日は急だったから仕方ないか。また今度、お泊まりしてね?」
「……しっ、しませんっ!」
「えー」
不服そうに頬を少し膨らませて、帰るために立ち上がった私を見上げている。
やば、かっわいい……っ。
よく“彼女の上目遣いのおねだりに彼氏キュン”……とかってあるけど、逆もあり得るんだな、勉強になった。
……まぁ、キュンとしても私は帰りますけどねっ。