車を定位置に駐車して、私に「ちょっと待ってて」と声を掛けた。
シートベルトを外して、気づかれないようにため息をつく。
彼は車から降りるたびに私の助手席の扉を開けようとするのだ。
別に私なんかに律儀にそんなことしなくてもいいのに……。
「はい、どうぞ」
「……ありがとう」
こんなことやってるの、外国の映画でしか見たことがないよ。
にこにこ嬉しそうだからイヤと言うのも少し申し訳ないし、本心からイヤだと思ってるわけじゃないのも困る。
彼のにこにこ笑顔はほんと罪だなぁ、そんな嬉しそうにされたら断れないでしょ。
エレベーターで彼の部屋のある階へと向かう。
不思議なのは、このビル自体は結構古そうなのに、エレベーターが新しい機種だと言うこと。
古くて危険になったから入れ替えたのかもしれないけど。
だから快適に上まで上がれる。
私の古いマンションのおじいちゃんエレベーターとは大違いだ。



