こんな綺麗な顔でにこにこして、モテないわけがない。
きっと数多の女性を虜にして来たんだろうな。
そのうちの一人に数えられてしまうのがイヤだ。
別に私は虜なんかになってないし。
――なんて言い訳がましいことを考えても、彼の顔をチラチラと盗み見てしまうのはどうしてもやめられそうにない。
好きだからとか、そう言うんじゃないと思うし。多分、絶対。
私の脳内ではそんなくだらない葛藤や妄想を繰り広げつつも、口では他愛のない会話を交わす。
歳を重ねるたびに、このスキルがどんどん上達する。
大人になるってこう言うことなのか、もしそうだとしたら虚しすぎる。
なんとなく見覚えのある風景になって、気づくともう彼の住むあの雑居ビルの前だった。
ビルの地下駐車場へと車が下りていく。
こんな雑居ビルには相応しくない高級車ばかり止まっていてギョッとする。
車に興味があるわけじゃないからよく分からないけど、スポーツカーと、RV車と、普通の車の高いやつ。
ごめんぜんぜん分かってない、けど、どれも高そう。
その中で彼の乗るこの車だけが普通すぎて浮いて見える、と言う状態だ。
気にしないあたりが彼らしい気もする。



