車へと戻ると、「楽しかったね」とご機嫌な彼。
そうだよね、好き放題したんだもん、楽しかったよね?
そして、自分は? と考えてみると、私自身もそれなりに楽しかったように思ってしまうのだから、もうきっと完全にメープルくんの思惑通りだ。
なんだか調子が狂う。
「今日までの二週間、亜矢さんはどうしてた?」
「え、どうって、平日は普通に仕事で、休日は家でまったりしてたけど」
「……そっか、そうだよね……」
そう言えばここへ来る道すがら、会いたかった的なことを言われたね、本心かどうか怪しいけど。
「やっぱり向こうから電話すれば良かったなぁ……」
「……向こう?」
「ちょっと海外に視察に行ってたんだよね。時差があるから電話しなかったんだけど……すれば良かったなぁ」
「え……海外? 視察?」
「うん。フランスとスペインに」
「……フランスと、スペイン……?」
「あ、お土産、いっぱい買ったよ。あとで渡すね」
「……視察、って……?」
「うん、まぁ、仕事。半年前から入れてたからキャンセル出来なくて、仕方なく」



