「ごめん、最初、冷たかったね」
「……」
こんな状態で、夜景どころじゃないでしょ。
後ろからいろいろ街の解説をしてくれるけど、その声が、耳からだけじゃなくて骨伝導みたいな感じで響いて届くから、本当にものすごく落ち着かない気分になる。
心臓が、心臓が……っ。
結局あと1分どころか、たっぷり10分ぐらいは密着の体勢でその場にいた。
後ろから風を遮ってくれていたのと密着していたおかげでそんなに寒くはなかったけど……あまりにも心臓に悪すぎる。
しかも、展望デッキに行く時は繋いでいなかったのに、帰りはなぜか彼に手を拉致られて更には恋人繋ぎにされて。
文句を言ってやろうと私の右手を拉致してる男を見上げると、「ん?」と小首を傾げてにっこりされて、私、あえなく撃沈……。
「亜矢さん、なぁに?」
「……なんでもないっ」
「なんで? どうしたの?」
「……もういいっ」
「……ふぅん? そう?」
なぁに、とか、ふぅん、とか言いながら、拉致した私の右手を親指でなでなでするの、やめてっ。
本当は分かってるのが、ますます腹が立つ。
私の方が年上なのに、なぜだか全く彼には勝ててない気がする。
別に、勝負なんかしてないんだけどさ……。



