私がムッとしながら前へ向き直り「なんでもない」と言うと、彼は「ほんとに?」と私の顔を覗き込んだ。
どうして平気でそう言うことが出来るんだろう、この男は。
何というか、いろいろ距離感が近すぎて、私からの距離をどうすればいいのか迷ってしまう。
こっちでも迷子なのか、私。
「……亜矢さん」
「……」
「……ね、もしかして、お風呂、入った?」
「……は?」
「ふふ、良い匂いがする……」
「……せ、」
「え……?」
「……せくはらっ」
だから、良い匂いがするとか、その手の言葉はほんと、慎んで欲しい。
心臓に悪いから。
「ふふっ、ごめん」
彼はハンドルに両腕をつき、私の方を見たまま腕の上に頭をのせた。
笑いながら謝るって、ぜんっぜん謝る気がなさそうだよね。
悪いと思ってないってことだよね。
横目でジロリと睨んでみるけど相変わらずにこにこしていて、私の睨みは全然効き目がなかったらしい。
どうすればその軽薄な口をつぐませることが出来るんだろう。
でも、ホストとしてはそれが正解なのかもしれない。
女の子の気分を良くするのが彼らの仕事なのだから。
たくさん楽しませて喜ばせるには、もっともっと甘い言葉をかけ続けなきゃいけないもんね。
でも残念ながら私は客じゃないから、そう言うのは必要ない。
だから出来れば普通の会話だけにして欲しい……。



