「……はい」
スマホをうっかり落としそうになりながらも、なんとか通話を開始する。
声が上ずったかも知れない。
気づかれていませんように、と願う。
『亜矢さん、久しぶり』
「う、ん、久しぶり……」
ただただ彼の言葉をオウム返しにするだけでもなぜだか緊張してしまう。
電話だと、彼の声がとても大人っぽく聞こえる。
顔が見えないからかな。
『元気?』
「うん、げんき……」
やっぱり彼の言葉をそのまま返すだけの私に、彼がほんの少し笑った音が耳に届く。
ふふ、と言う、彼のいつもの笑み。
その表情を思い出してしまって、なぜだか急に顔が熱くなる。
『亜矢さん、今から、ヒマ……?』
「……え、っと……」
つき合っていた人とは一か月前に別れた。
いまは残業にさえならなければ、毎日毎晩がヒマだ。
けれどそんな恥ずかしい事情を自分から暴露できるはずもなく、見栄を張って言い淀んでみたりする。
『予定とかないなら、ドライブでもしませんか?』
「ドライブ……」
『うん』
この時間から……?
きみの仕事は……?
今からが稼ぎ時だったりするんじゃないの……?
それとも今日は、お休みなの……?
疑問ばかりが頭に浮かぶけれど、言葉には出来ずに全てを飲み込む。



