隠れ御曹司の愛に絡めとられて


さっき私がうずくまっていた場所から数十メートル先まで歩いたところで「着いたよ」と横から声を掛けられ、ハッと顔を上げる。

しまった、また、風景を――目標物をちゃんと見ておくのを忘れた。

今更あせってももう遅い。


古いビルにありがちなガラス扉を開けて、どうぞ、とビル内へと通される。

外側にも内側にも、ビルの名前はどこにも書かれていない。

ビルの名前さえ分かれば検索が出来るかなと思ったのに、それも無理そうだ。

他の階にテナントは……、と見渡すも、どこにも集合郵便受けや管理人室が見当たらない。

どう言うことだろう。

分からないままエレベーターで5階まで上がる。

ポーン、と音がして扉が開くと、すぐ目の前が彼の部屋の玄関扉になっている。


鍵を開け扉を開くと、数日前に訪れた記憶のままの玄関が現れて「どうぞ」と促され、「お邪魔します」とつぶやいて一歩中へ足を踏み入れた。

少し古く見える木の床に、レンガの壁。

ブルックリンスタイルのインテリアは、玄関周りもそれで完全に統一されている。

古いビルによく合っていると思う。