一日バタバタと慌ただしく仕事を終えたあと、私は若月ちゃんより一足先に職場を後にする。
もちろん腕時計の持ち主の家を探すためだ。
会社から3駅隣の、T駅――。
ここは後輩の若月ちゃんと、もうすぐ彼女の夫となる我が社の専務取締役が住むマンションの最寄り駅でもある。
だから本当は彼女に色々聞きたかったんだけど……でもよく考えたら何を聞けば良いのかさえ分かってなかったことに気づき、結局は何も聞けず仕舞いだった。
だって彼のことは、名前も、職場も、住んでる場所も分からないのだ。
いくら彼女の住む家の最寄り駅と言っても、こちらから何も質問内容を提示できなければ彼女も答えようがない。
あーあ、せめて彼の名前ぐらいはちゃんと覚えておくべきだった。
ついでに、住んでる建物の名前も……。
あの日、彼の家を出る時に気づいたのは、彼が住んでいるのはマンションとかアパートではなく、少し古いビルの改装された一室だったと言うこと……。
駅前に近い辺りはマンションよりも雑居ビルの類いの方が多くて、しかも古いビルなんて山ほどある。
やっぱり諦めて、美紀の後輩経由で連絡を取ってもらうしかないのかな。
けれど、なんとなくそれも言い出しづらい。
あの合コンの日、私があんなに酔っ払ってたからなんだけど……。
まぁ自業自得と言うやつだよね。