「それよりも、亜矢さんの方が心配。大丈夫? 掴まれてたところ、痛くない?」
孝治に腕を強く掴まれていたことを言っているのだろう。
スーツの上にコートを着ていたこともあって、いまはもうあまり痛さもない。
もしこれが夏場だったら握られた痕がくっきりと残っていたに違いない。
「私は大丈夫。それより、カエデくんの方が……っ」
「大丈夫だよ、なんともない。とりあえず、帰ろう?」
本来カエデくんと待ち合わせるはずだった場所に止めてあった車に乗り込み、カエデくんの家へと車を走らせる。
その途中で、カエデくんはなぜか少し嬉しそうな笑みを漏らした。
「……カエデくん、どうしたの?」
「ええ? ふふ、だって亜矢さんが」
「……え?」
「ふふ。嬉しかったなぁ」
「え、何が……?」
「だって、言ってくれたでしょ? 僕のこと、好き、って」
「えー、あー、言った……、かな……?」
あれは、孝治があまりにもカエデくんに失礼なことを言うから、つい、本音が……。
と言うか、聞いてたんだ……。
まさか本人に聞かれているとは思いもしなかった。
聞かれていると分かっていたなら、もう少し言葉を選んだのに。



