「反対方面の電車でお前らがイチャイチャしてんの、見たんだよっ」
「……!?」
今週の火曜日、孝治が私の家に行こうとして電車に乗っている時に、私とカエデくんが私の家とは反対方向の電車に乗っているのを目撃したらしい。
「月曜の夜もお前ん家に行ったけどいねえし、火曜日はそんなとこ見せつけられるし、水曜も木曜も家にいなかっただろ!? あのガキと毎晩遊んでんのか!?」
「……それ、孝治には何も関係ないよね!?」
「俺はお前に話があるから連絡してんだろ!? 関係なくねーだろ!!」
私の返す言葉に孝治はますますイライラし始めて、どんどん声が大きくなっていく。
ここはまだ会社の前で、退社していく社員たちが何事かと私たちをチラチラと見ていた。
そんなことにはお構いなしに――いや、ただ激昂して周りが見えていないだけかもしれないけど――孝治はますます声を荒げ、それと共に、私の腕を掴む手にも力が入っていく。
そうやって熱くなる孝治とは逆に、孝治に対する私の心はどんどん冷えていく。
「……孝治っ、腕、放してっ。痛い……っ」
「放したらお前、逃げるだろ!?」
「に、逃げないよっ。あと、場所を移そう?」
「人に聞かれたら困ることでもあんのか!?」
「そう言うことじゃなくて……っ」
きっともう私の言葉は、彼には届かない……。
彼の言葉が、もう私には届かないのと同様に――。



