カエデくんには会社のエントランスからは少し離れたところで待っていてもらうようにお願いしてあるので、駅へと向かう人の波からゆるやかに抜けた。
その次の瞬間、誰かに腕を掴まれてギクリとする。
「どこ行くんだよ?」
強く腕を掴んでいるその人物に無理矢理引き止められ……、駅へと向かう人並みから少しだけ外れたところで立ち止まったまま、私はその人物を茫然と見上げた。
「……孝治」
「音信不通だし、家にもいねーし、どうなってんだよ!?」
半ば怒りに満ちた表情で私を見下ろしているのは、元カレの孝治だ。
まさか会社の前で待ち伏せしてるなんて思いもしなかった。
いや、その可能性を考えておくべきだったのかも知れない。
あれだけ電話やメッセージを寄越してきていたし家にも押しかけるぐらいだったんだから、電話にも応答しない、メッセージは既読にならない、家にもいない――となると、会社に来るしかない。
完全に私の想像力不足だ。
「家にいねえのは、あのチャラチャラした男んとこに転がり込んでるからか!?」
「……は?」
「茶髪の、ホストみたいなガキだよっ」
茶髪のホストみたいな……と聞いて、すぐにこの人が言っている人物がカエデくんのことだと分かった。
でも、どうして孝治がカエデくんのことを……?



