最後の一言は急に声のトーンが変わったので、今度は私の方が目を丸くする番だった。

カエデくんの顔にはさっきまでのふんわりと優しい笑みも、いつものような明るく楽しげな音色の声はもうそこになくて、苦しそうに絞り出すような声で……。

彼の声や表情は、冗談で言ったりしていないことを伝えるには十分だ。


「亜矢さんの体調が悪そうなのも、それでも亜矢さんが無理してしまうのも、分かってたのに」

「そ、それは私自身のせいで、カエデくんのせいなんかじゃないよ」

「ううん、違うよ、僕のせい。ごめん……」

「なんで……カエデくんが謝るのよ、違うってば……」


カエデくんの手はギュッと握りしめられていて、唇を噛んでうつむいてしまった彼の手に、私はそっと手を伸ばした。

私の指が触れても固く握りしめた手が解かれることがなくて、私は申し訳なくて苦しい気分になる。


「カエデくんが罪悪感を覚える必要なんてないよ。悪いのは私。自己管理がちゃんと出来てない私だよ……」


“食欲不振”とか“寝不足”なんて、自己管理が出来ていない証拠だ。

社会人として恥ずかしい。

私がうつむいて自分の怠慢を反省していると、カエデくんが私をふわりと抱き締めた。


「えっ、あの……っ、カエデくん……っ?」

「ふふっ、確保」

「え、ええっ?」

「亜矢さんの体調が良くなるまで、絶対に帰さないからね、ふふふっ」

「えええっ!?」


待って待って!

さっきのあの苦しそうな言葉は、何だったの!?

えええっ……!?


混乱して思考が停止してしまっている私を抱き締めたカエデくんは、「今日はたっぷり拘束して甘やかすから、覚悟してね……?」と私の耳元で囁いた――。