彼の口から普段は聞くことのない敬語……。

電話の相手は目上の人? それとも取引先?

ふんわりと笑ってることが多い彼だけど、仕事の話をしているからなのか、今はキリッとした表情をしているように見える。

いつもと少し違う彼の横顔を私は思わずじっと見つめた。


カエデくんは「――はい、では月曜日にお願いします。失礼します」と締めくくって電話を切る。

その真剣な表情に私は思わず、そんな顔もするんだ、とドキリとしてしまった。


電話を終えたカエデくんは扉の前にぼんやりと立ったままの私に気づき、その途端にいつもの優しい表情に変わる。


「亜矢さん、起きて大丈夫? どうしたの? 何か欲しい物あった?」

「……あの、私、帰る……」

「ええ? だめだよ? 何も食べてないし、まだ顔色が良くないから帰せません」

「でも、私……」

「仕事が心配?」

「そうじゃなくて……」

「ん?」

「私……もうこれ以上、カエデくんに迷惑をかけたくないから……」


私がそう言うと、彼はめをまん丸にして「ええっ?」とビックリ顔になった。


「迷惑だなんて思ってないよ?」

「でも……」

「好きな人のことを心配したり手助けしたり出来て、僕としてはしあわせなんだけど?」

「え、ええ……っ?」

「このままずっと亜矢さんがうちにいてくれるといいなーって思ってるんだけどね?」

「……!?」

「……むしろ、昨日帰してしまって、すっごく後悔してる」