どうして名前を口にすることが出来なかったのかを説明しようと口を開いた直後、スマホの着信音が鳴り響いた。

きっとカエデくんのものだろう。

彼は小さくため息をついたあと、けたたましく音を鳴らし続けているそれをポケットから取り出す。


「……ごめん、仕事の電話だ」

「ああ、うん、えっと……私、もう少し寝てるね」

「……ごめん」


カエデくんは申し訳なさそうな笑みを私に向けたあとすぐにベッドルームを出て行った。


仕事、か。

そう言えば彼の職業は一体何なんだろう?

最初はホストだと思っていた。

でも……彼と一緒に過ごす時間が増えるごとに、それは違うんじゃないかと思い始めている。

容姿が良すぎることや髪の色が明るいこと、女性の扱いが上手いことがホストっぽく見えてしまっているけど、それだけでホストだと断定してしまうのは間違いだ。


だったら、彼の本当の仕事は、何……?

もし彼がホストではなくて普通の飲食店の従業員だったとしたら、今日私の面倒を見ることになってしまったせいで彼に仕事を休ませてしまったかも知れない。

そのせいで仕事の電話がかかって来たのだとしたら……。


迷惑しかかけていない、最初から、出会った時からずっと。

そう気づいてしまうともういてもたってもいられなくなって、私はベッドから這い出した。

ふらふらとベッドルームを出ると、カエデくんが電話をしている声が聞こえる。


「――はい、最終確認も済んでいます」