隠れ御曹司の愛に絡めとられて


「何か食べられそう?」

「……何もいらない」

「ひとくちだけでも」

「……ごめん」


食欲は全然ない。

身体がだるくて、頭がぼんやりする……。


「熱はなさそうだね……」


彼はベッドの端に腰掛けて私の額にそっと手の平をあてる。

あぁ、カエデくんの手、ほんのりと暖かくて気持ちが良い……。


「亜矢さん、なにか欲しい物ある?」


私に問いかける優しい表情に、ふと、誰かに似てるな、と思う。

頭が重くて、脳裏によぎった人物の顔はすぐに消えてしまった。

仕方なく問いかけの返答に対してゆるりと首を振る。


「眠い……?」

「ううん、眠くない……」

「何か飲む?」

「……じゃあ、お水」

「うん、分かった、取ってくる」


すぐに水を持って戻ってきてくれて、渡された水を少し口に含む。

本当は喉なんて渇いてなかった。

食欲も全然ない。

何も口にしないと彼が必要以上に心配しそうだから水を飲みたいと言っただけだ。


「……カエデくん」

「……え?」


私が彼の名を呼ぶと、彼は驚いたように目を丸くして私を見つめた。

今まで一度も彼の名前を呼んだことがなかったのだから、彼が驚くのも無理はない。


「あのね……、」