その後、なんとか普段通りの仕事をこなして、やっと定時が来た。
就業時間がこんなに長く感じたことはない。
若月ちゃんに声を掛けて、先に上がらせてもらう。
気が利く上に仕事の出来る後輩を持てて私は本当に幸せだ。
ふらふらとエレベーターに乗り込んで、スマホを確認する。
やっぱり孝治からのメッセージがたくさん送られてきていて、でももう確認して削除するのも面倒になって、そのままバッグへと突っ込んだ。
エレベーター特有の揺れが気持ち悪い。
どこかの階に止まるたびに浮遊感に襲われるのがつらいし、大勢の人が乗っているので空気が生ぬるくて酸素が薄い。
なんとかやり過ごして、よろよろとエントランスを抜ける。
冬の空気はパリッと冷えていて、やっと肺いっぱいに酸素を取り込めた気がする。
「亜矢さ~んっ」
どこからか聞いたことのある声が聞こえてきて、私はその声の方向へと顔を向けた。
私の目はすぐに彼を見つけることが出来て、可愛らしく手を振る彼に、私も小さく手を振り返す。
空気が冷たくて私の吐く息が白くなっているからか、目の前が白く霞む。
白い霞が少し灰色がかってきて、視界がグラリと揺れる。
まるでまだエレベーターに乗っているような感覚と浮遊感に襲われて、足がもつれた。



