「亜矢さんさぁ、ひとりにするとちゃんとご飯食べてなさそうなんだもん……」
「……」
「僕と一緒に住んだら本当に三食デザート付きだよ?」
「……」
三食デザート付きで、確かおやつも付くって言ってたな……。
本当は超絶魅力的なお誘いだけど、でも、それに乗るわけにはいかない。
「だめ」
「なんで? 理由は?」
「……だめなものは、だめなのっ」
だってそんなの、まるで私、食事目当ての女みたいじゃん……。
そんなの嫌だし、ダメでしょ。
いくら私がメシマズ女で料理が全く出来なくても、そのためだけに一緒に住むとか、人としてさすがにダメだ。
そこまで人間を捨てていないつもり。
「分かった。じゃあ約束して、亜矢さん」
「……なにを?」
「ちゃんと食事するって、約束して。買ったものでもいいし、外食でもいいから」
これは……私が自炊しないってバレてる感じだよね?
まあバレるか、あの冷蔵庫の中身、あの何もないキッチンの状態を見られてるからね。
私は「分かった」と仕方なしに首を縦に振った。
その後彼は、しぶしぶ車で家まで送ってくれた。
何度も何度も「絶対にちゃんと食べてね?」と念を押しながら。
部屋の前まで行くと言うのを丁重にお断りして、マンションの前で手を振って別れる。
別れ際に、もう何度目か分からない「ほんとにちゃんと食事してね!」と言葉を残す彼に私は苦笑いしながら「はいはい」と答えてエントランスをくぐった。



