車内はかなり混んでいて、そんなに自由に身動きできるような状態でもない。
彼の手を振りほどきたい気持ちは山々だけど、混雑した車内ではどうしようもない。
電車は時折ゆらゆらと揺れて、そのたびに私の腰に回されていた腕がぐっと彼へと引き寄せられる。
心臓に悪い。
この人は本当に、いつも予想外の行動で私の心臓を壊しに来るから始末が悪い。
自分の気持ちを正常に保つのが難しくて胸が苦しくなる。
どうにかして早く動きすぎる心臓を宥めようと、私は小さく深呼吸をした。
けれど、それが間違いだった。
こんな風に密着した状態でそんなことをすればどうなるか、少し考えれば分かりそうなものなのに。
胸一杯に吸い込んでしまった彼の匂いで余計に心臓が暴れて、ますます息苦しくなってしまって……。
「……亜矢さん?」
彼がすぐ目の前で小さく問いをたてる優しいその声音も、私の心臓の動きを早めるのに加担する。
息苦しくてたまらなくなって、けれど息を吸い込めば吸い込むほど状態が悪化していく。
「大丈夫? 苦しい?」
「だ、いじょうぶ……」
ドキドキしすぎて声が掠れる。
そんな自分の状態を知られたくなくて顔を背けると、私の腰を抱く彼の手に力が入った。
「僕にもたれてて良いからね?」



