隠れ御曹司の愛に絡めとられて


小走りでエントランスを抜け、エレベーターに乗り込む。

顔見知りの社員が何人もいて、なるべく平静を装って朝の挨拶を交わした。

私の席は役員フロアにあるので他の部署のフロアよりもずっと上にある。

最後の一人が降りるまで気が抜けない。

服装や顔色を含めて変に思われていないかを気にしながら、乗り合わせた人たちを見送った。


やっと自分の席へと着き、姿勢を正す。

いつも通りスマホをマナーモードに……と思い、そう言えば昨晩マナーモードにしてから一度も触っていないことに気づいた。

見ない方が良いのかもしれないけど、と思いながら着信履歴を確認すると、案の定、鬼のように孝治からの連絡が入っていた。

一気に気分が悪くなって、孝治以外の人からのものが混ざっていないかを確認し、またバッサリと削除した。


孝治ってこんなに粘着質な人だったんだ、知らなかった。

あっさり私を振ったから、もっとサッパリした人間なのかと思ってた。

げんなりしながらスマホをバッグへと戻そうとした時に、バッグの中に見たことのない包みが入っていることに気づく。

それには綺麗な字で書かれたメモが付いていて……。


“お仕事お疲れ様です お昼に食べてね!”


メープルくんが何かお昼に食べるものを入れておいてくれたらしい。

どこまで気が利く子なんだきみは!

気が利くついでに、最後に署名しておいてくれれば名前が分かったのに……!

それは私のわがままか。