隠れ御曹司の愛に絡めとられて


――朝から健康的かつ美味しそうな朝食をすっかりとお腹の中に消し去り、私は彼の運転する車の助手席に収まっている。

彼が「会社まで送っていく」と言って聞かなくて、私が渋々折れた。

車が会社のど真ん前に止められる。

えええ、待って、出来ればもうちょっと脇とか、一筋向こうとかに止めて欲しかった。

言わなかった私が悪い。

誰かに見られたら変に噂されたりしないだろうか、と青くなりながら、「送ってくれてありがとう」とメープルくんにお礼を言う。


「どういたしまして。行ってらっしゃい」

「い、行ってきます」

「あ、亜矢さん、待って、忘れ物っ」

「……え?」


さすがに今回はドアを開けるようなエスコートはしなかったけれど、代わりに呼び止められた。

忘れ物? 何だろう……、と思っている間に、彼に肩をグイと引っ張られる。

え、と思っている間に、彼の顔が近づいてきて――頬に軽くキスをされた。


「……っちょ、っと……!!」

「ふふ、一日元気に過ごせるおまじないだよ。じゃあ、行ってらっしゃい~」

「……も、もうっ。ばかっ」

「ふふふ」


にこにこ笑顔でひらひらと手を振る彼をジロリと一睨みし、私は無言で車を降りた。

頬が、熱い……。

今日はちゃんと仕事が出来るだろうか……。