仕事が終わり帰る頃には電池の残量がすっかり減っていて、家に帰り着くまでに電源が落ちていまいそうだ。

電池の消耗もイライラするけど、なによりも、結構な頻度でメッセージや通話の着信があるのが精神的に疲れる。

もう連絡してこないで欲しい。

そろそろスマホ恐怖症になりそうな勢いで来るメッセージに、私は本当にうんざりとしていた。


一日の仕事を終えて会社を出る直前にまたスマホがブルブルし出して、イラッとして画面を睨みつける。

今のこれはメッセージじゃなくて、通話の着信のようだ。

うんざりしながらも画面に表示されている発信主の名前を見て、私は即座に通話ボタンを選択した。


「……はいっ」

『こんばんはー』

「こ、んばんは……」

『ふふ。いま電話してても大丈夫?』

「あ、うん、大丈夫」

『まだ仕事中?』

「ううん、さっき終わって……これから会社出るところ」

『良かった、タイミングばっちり。ねえ、今から会えない?』

「え、っと……」

『あ、先約あった?』

「いや、そうじゃないけど……」

『……ダメ?』


電話を掛けてきたのはメープルくんだった。

相変わらずふわふわ笑ってそうだな、とか簡単に彼の表情が想像できてしまう。


「だめじゃないけど……」

『ふふ、やったー』

「……」

『じゃあ、迎えに行くね?』

「え、ええ……?」

『亜矢さんが迷子になっちゃって会えないのも困るし』