「じゃ、帰るねー」

「うん……。片付けてくれてありがとう……」

「ううん、こちらこそ、お邪魔しました。あと、ごちそうさま」

「……作ってくれたのはそっちでしょ。ワインだってお土産でもらったものだし」

「うん? いや、そうじゃなくて。ふふっ」


そう言って彼は、自分の唇に人差し指をあてがう。

あ、あー、そっち、ですか。

はいはい、キスね……。


じゃあね、と言って玄関へと向かうメープルくんを、私は慌てて追いかける。


「待って、タクシー呼ぶ」

「大丈夫、適当に拾うから。亜矢さん、ここまでで良いよ」

「えっ、でも……」

「ここまでにしておいて。酔ってて可愛い亜矢さんを他の人に見られたくないから。ね?」

「!?」


びっくりして停止している間に彼にもう一度軽く口づけられ、今度こそ完全に言葉を失った。

言動が、予測も理解も不能。


「じゃ、またねー」


手を振りながら小首を傾げてふわりと微笑み、彼は帰って行った……。


「……」


パタンと扉が閉まると同時に、静寂が訪れる。

私は、思わず玄関にペタリと座り込んだ――。