「……ずるい」
「ええ? ずるいのは亜矢さんでしょ……?」
何言ってんの?
ずるいのは絶対にメープルくんの方だ。
「飲んじゃったら、帰らないかもしれないよ?」
「……」
「いいの……?」
「……わ、分かんない」
こんな答え方、卑怯だって分かってる。
でも……、だって、本当にそれでいいと思ってるのかどうかが自分でさえも分からないから。
帰って欲しくない気もしてる。
それがどう言うことを意味するのかは、分かってる。
「亜矢さん……?」
「……」
「亜矢さん」
「……あの、ね」
「うん……?」
「か、帰らないのは困る、たぶん……」
「ふふっ、うん、そうだね」
「……でも」
「でも……?」
「一緒に、飲みたい……」
俯いたまま私がそう言うと、彼は黙ってしまった。
出来れば早めに返事が欲しい、私だってかなりの覚悟で口にした言葉だったから。
「じゃあ……、うん、タクシーで帰ることにするね?」
「……えっと、グラス、取ってくるっ」
彼の顔を見ないようにしながら慌てて立ち上がろうとした私の手を、彼が優しく掴んだ。
「亜矢さんは座ってて。僕が取ってくる」
「……う、ん」
私の代わりに立ち上がった彼の髪がふわりと揺れて、彼の顔が半分隠れる。
彼の顔は、見えている部分が半分ぐらいでちょうど良いのかもしれない。
あまりにも綺麗すぎて、時々直視できなくなるから。



