メープルくんが手土産に持ってきてくれたケーキは舌の肥えた秘書課の先輩方でさえも美味しいと絶賛するお店のものだ。
SNSでも話題になっていて、昼過ぎには売り切れるほどの人気だ。
私も気になってはいたけど初めて行くお店は辿り着けない可能性の方が高いから、まだ食べたことがなくて……。
正直、メープルくんの手に握られていたケーキの箱に小躍りしたくなったぐらいに嬉しかった。
「……ケーキ、いただいてもいい?」
「もちろんどうぞ! 亜矢さんのために買ってきたんだから、遠慮しなくていいよ」
「じゃあ……、いただきます」
しっかりと手を合わせ、芸術品のようなケーキにフォークを入れる。
ひとすくいしたものを口へと運ぶと、しあわせな甘みが口いっぱいに広がり……。
ああ、至福の時……。
「……美味しい?」
「うん! とっても!」
「そう、良かった。……ね、こっちも食べてみる?」
実はそっちのケーキも美味しそうで、正直言ってどっちを選ぶかかなり迷ったほどだ。
でも……、と迷っていると、メープルくんはケーキひとくち分を刺したフォークを私の前へと差し出した。
「はい、どうぞ」
「……え」
「亜矢さん、あ~ん」
「……」
にこにこと嬉しそうに微笑みながらケーキの刺さったフォークを差し出すメープルくんに、私は思わずくらりと眩暈が……。



