隠れ御曹司の愛に絡めとられて


コーヒー粉末が入ったマグカップに沸騰したお湯を注いだだけの飲み物をにこにこ笑顔で飲むメープルくん。

私はいつもブラックだから、ミルクもなければお砂糖もない。

昨日彼が入れてくれたコーヒーとは雲泥の差の黒っぽい飲み物をなぜだか美味しそうに飲む彼は、本当に一体何を考えているんだか……。

にこにこ笑顔の裏に何かがありそうな気もするし、何もない気もする。

分からない、この子が何を考えてるのか、まったく……。


「ね、亜矢さん。ひとつ質問していい……?」

「ん、なに?」

「ごめん、お昼ご飯の邪魔、しちゃった……?」

「え……?」


予想外の問いだったので、思わず小首を傾げる。

すると彼はキッチンの作業スペースに置きっ放しにしていた、食べかけのお弁当を指さした。


「あー、ああ、えっと……、ううん、違うよ。あれは少し前に……」

「……うん?」


元カレが来たことを言うべきかどうか一瞬悩んだ。

別にメープルくんとはつき合ってるとかそう言う関係なわけじゃないし、元カレの存在を秘密にした方がいい間柄なわけではない。

でも、わざわざ言うのもなぁ。


「ちょっと他のことが原因で食べ損ねただけ。気にしないで」

「……ほんとに?」

「うん、本当」

「お腹空いてるんじゃない?」

「今はケーキの方が食べたい」

「そう? じゃあ、ケーキ食べよう」