隠れ御曹司の愛に絡めとられて


「……仕事は?」

『うん、今日は、もう無い』

「……ふぅん、そう」

『うん』


時計を見ると、時刻は午後3時になろうとしているところだった。

テーブルの端に追いやられたお弁当の残りが私の目の端に映る。

あーあ、結局お昼ご飯をほぼ食べ損ねてしまった。

まあそれはいいとして、メープルくん今日はお仕事無いのかな……。

“今日はもう無い”って言ったよね? 今日はお仕事お休みなの? 行かなくてもよくなったとか?


『……ねえ、亜矢さん』

「……え? ああ、うん、なに?」

『あのね……。会いたいなぁ……』

「……は?」

『会いたい。……ダメ?』

「え? えっと……」


だって。昨日の夜、会ったじゃん。

私とメープルくんとは、恋人でもなければ友達でもない、“ただの知り合い”じゃん。

たったそれだけの関係でしかないじゃん。

そんな関係の二人が、そんなに頻繁に会ったりする……?


『会いたいな……』

「……えええ、っと……」


べ、別に、会いたくないわけじゃないんだよ?

でも、彼の真意が分からないから、どうすればいいのか分からない。


『……ごめん。ダメだよね……』


きっとものすごーくシュンとしてるんだろうなーってことが、電話の声だけなのに、伝わってくる。

どうしても“犬のメープル”がシュンとしていた時のことが思い出されて……私は思わず「いいよ」と言ってしまった。

すぐに後悔したけど、もう遅い――。