とびきりじゃなくていい、普通に食べられるものを作れたら、それでいい。
そう思い、もう何度も何度も挑戦した。
何度挑戦しても結果はひどいもので、さすがにもう私には無理なんだと悟った。
だからもしこの世が家庭的な女じゃなければ結婚できないと言うのなら、私はこの先も一生ひとりでいいと思う。
そんなことを考えながら、私は目元に滲んでしまった涙を指でぐっと拭った。
テーブルに置きっ放しになっているスマホが、メッセージの着信音を鳴らす。
また孝治からか、と半ばうんざりしながら画面を睨んだけれど、そこにはメープルくんからのメッセージが表示されていた。
【起きたら亜矢さんの声、聞きたくなっちゃった。電話していい?】
いま起きたのかな?
夜の仕事なら、そんな生活サイクルかも知れない。
そう思いながら、【いいよ】と返信してすぐに画面を暗転させ……る間もなく、すぐに電話がかかってきた。
はやっ。
「……はい、もしもし」
『ふふ、亜矢さんの声だ……』
電話の向こう側で、相変わらずふわふわと笑ってるんだろうな。
簡単に想像できて、思わず私も笑顔になる。
『何時間か前まで聞いてたのに、もう声が聞きたくなっちゃった』
「もう、相変わらず調子良いんだから……っ」
『ふふ。ごめんね? 忙しくなかった?』
「それは……大丈夫」
『そう? なら良かった』
フォローも完璧で、相手の心を自分に繋ぎ止めておくのが上手すぎる。
やだな、こんな男に落ちたくない……。
だってきっと、落とされた女は星の数、だろうから。



