隠れ御曹司の愛に絡めとられて


あくまでも、忙しくて会えなかったのは平日の夜だけだ。

土日などの休日は私もちゃんと休みだったし、私から会おうと言ったことだって何度もあったのに、それを全部断っていたのは孝治の方だ。

きっと、私と会うよりもユミって子と会う方が楽しかったんだろう。

私にも原因が色々あるのは認めるけど、この関係を決定的に壊してしまったのは孝治の浮気行為なわけだし、別れ話を持ち出したのは孝治の方だ。

今さらよりを戻したいだなんて、虫が良すぎる。

残念ながら私にはもう一度孝治とつき合う気は全くない。


「……亜矢が料理音痴でも、俺、我慢するからさ」

「……はぁっ?」

「ちょっとぐらいメシが不味くても、文句言わないよ」

「ちょ、ちょっと待ってっ、自分が何言ってるか分かってるの……!?」

「だから、」

「出て行って!」

「なあ亜矢っ、」

「顔も見たくないから、今すぐ出て行って!!」


私は孝治の腕を掴んで玄関へと引っ張っていく。

孝治は私の剣幕に驚いた顔をしていたけれど、だからこそなのか、渋々ではあるけど抵抗することなく帰って行った。

「また連絡する!」と言う不要なセリフを残して……。