ふあ…ねっむ…｡

…って、ん？ああ、父さんからか。

寝起きだが、大学に遅刻しないよう、支度をしていると、父から『大学の昼休憩中、我が社の社長室へ来い』という連絡が入った。


全く、近いからって。また、ろくでもないことを言われるのだろう。
そんな風に思いながら、大学の講義を2つほど、受け、昼休憩になった後、急いで大学を出て行き、呼び出された社長室のドアを叩く。


「翔です。失礼します。」

「おー、よく来たな。」

…呼び出しておいて白々しい。部屋の中に誰もいないことを確認し、敬語を外す。

「で？話って何。」

「お前も分かっているだろう？そろそろ我が社を継ぐために結婚なんて考えたらどうだ？何人でもお前好みの素敵な女性とお見合いさせるぞ？」

はぁ……またか。

今年、何度目かも分からないその話に耳が痛くなる。

俺が死ぬほど人嫌いなことをよく理解もしていないくせに。

自分都合で会社を継がせるためだけに。

見合いで会う女なんかと結婚なんてするわけないだろ。

「断る。じゃ。」

「おい翔、待っ、」

まだ何か言いたげな父の言葉を無視して、会社から出ていき早足で大学へ戻る。

一人息子だから。
頭がいいから。
器用だから。
仕事が出来そうだから。

人々は、ただ、それだけの理由で、特に向いてもいない俺を社長にしようとする。
そんな周りを見続けているおかげで、幼い頃から家族以外の〝人〟という存在が大嫌いだった。

学校に通い始めれば、少しくらいは変わるのかなと思えば、顔が良いという理由だけで言い寄ってくる女、金持ちだと分かった途端、擦り寄ってくる男、多少の問題を起こしても責任を負いたくないからと無かったことにする学校。

ちっとも嬉しくない待遇の数々。俺は人と馴れ合うことを諦めたのだった。