敏生は、真っ白でふんわりとした雲の上に投げ出される夢を見ていた。

あまりにも非現実的なので、これが夢だということはしっかり認識できている。けれども、あまりの心地よさにこれが夢だということも忘れてしまう。

雲はとても柔らかくて、敏生を優しく包み込んでくれる。これほどの安心感と心地よさを、敏生は経験したことがない。そよ風が吹いて、それが顔を撫でていく。


——ああ、雲って、こんなにいい匂いがするんだ……。


このままずっと、ここに閉じ込められててもいい。たとえ夢であっても、覚めないでほしいとさえ思えてくる。


だけど、敏生は一つ気がついた。ここには結乃がいないことを——。
今の敏生にとっては、自分の世界の中心に結乃がいてくれることが、何よりも大事なことだった。

こんな所にずっといるわけにはいかない。早く結乃のいる世界に帰らないと。そう思った瞬間、

ドン!!

と大きな音とともに衝撃が伝わり、雲が消える。敏生は何もない空間に放り出されるとともに、重力に捕まって急降下し始める——。


「……はっ」


その時、敏生は覚醒した。
……目は覚めたけれども、なんだか現実味がない。