エレベーターに乗り込むと、敏生は結乃と目も合わせず無言のまま、腕を掴むのをやめて手を繋ぎ直した。
胸の鼓動がドキンドキンと、まるで頭の中で鳴り響いているようだ。酒のせいもあるのか、思考が定まらない。
敏生の感覚は、結乃と手を繋ぐ右手だけに全集中していた。


カフェバーのあったビルを出ると、花火の見物客でごった返していた。屋台が立ち並ぶ街を人混みの中を縫うように、敏生は結乃の手を曳いて歩き続ける。

あと先考えず結乃を連れ出してしまったのはいいが、これからどうしていいのかどうするべきなのか、敏生には判断できなかった。
夏の夜の、まとわりつくような暑さも感じられない。ただただ、痛いくらいに高鳴る胸が、張り裂けそうだった。


すると、どんどん前を歩く敏生に結乃が声をかける。


「芹沢くん?あの……、ごめんなさい」


突然謝られて、敏生はハタと歩みを止めて振り返った。謝罪の意味が分からず、無言のまま結乃の表情を確かめる。


「芹沢くんが誘ってくれたのに、合コンの方に行ったりして……」


結乃がずっとそのことを気に病んでいたのかと思うと、敏生は結乃が可哀想になった。
そしてそれ以上に、結乃のことがいっそう愛しくなって、鳩尾がキュッと掴まれるような感覚がした。