この状況にすかさず適応したのが、川本だ。合コンにあの敏生が来た——その好機を彼女が逃すはずがなかった。

川本はそそくさと席を立って敏生に歩み寄り、空いているソファーに促して、ちゃっかり自分は敏生の隣に落ち着く。


「私は、総務2課の川本紅葉です。芹沢くんとは一応面識あるんだけど、覚えてるかな?」


と、媚びた上目遣いで見つめられて、敏生の身の毛がよだつ。


「え?!」


この無駄にケバい風貌はとても目立つ存在に違いないのに、仕事で関わった覚えはない。すると川本は、とても自然に敏生との距離を縮めて耳打ちした。


「ホワイトデーで私にキャンディーくれたことがあるでしょ?うふふ♡」

「……!!」


敏生はその忌まわしい過去を思い出した。律儀にバレンタインのお返しをした入社1年目のホワイトデーで、両想いになったと勘違いして資料室に呼び出され、キスを迫られたのは紛れもないこの川本だった。


——こんな所でこいつに会うなんて、……さ、最悪だ。


敏生は落ち着かなげに座りなおすふりをして、川本との距離を空けた。