その時だった。


「こちらでございます」


と店員に案内されて姿を現したのは、河合……ではなく……、


「………!!!」


その場にいた全員が、同時に息を呑んだ。


ほの暗くなった屋上ガーデンのお洒落な照明に、ふんだんに配された植物の緑が照らし出される。その中に立つ敏生の姿は、真夏の夜の熱気を感じさせないくらい清々しく、誰もが見とれて言葉を逸するほど麗しかった。


「こんばんは。河合に急用ができたので、代わりに来ました。営業1課の芹沢敏生です」


驚きの沈黙が漂う中、敏生は礼儀正しくお辞儀をした。その立ち居振る舞いの完璧なこと。一瞬でその場にいた男たちを凌駕してしまう。

普段は、合コンはおろか部署の飲み会にも顔を出さない敏生。その敏生がこの場にいることが、鳥山も信じられないのだろう。目を見開いて固まっている。


そんな皆の視線を一身に受けていた敏生が、真っ先に確かめたもの。それは、サラダのトングを手に鳥山の隣に座っていた結乃の姿だった。

敏生を見つめる結乃の眼差しには、驚きだけではなく、きまりが悪い戸惑いのようなものも混ざっている。