いよいよ花火大会の日になった。
家にいて何もすることがないと、余計なことを考えて落ち着かない。飼い猫の〝ユノ〟がニャーと鳴くたびに、愛しい結乃のことを思い出して、居ても立っても居られなくなる。

こんなときは無心になって体を動かすに限ると、敏生はランニングで汗を流すことにした。しかし、真夏の強すぎる日差しに容赦なく炙られ、暑さで死にそうになった敏生は、午後からは会社に行くことにした。

外回りをするわけではないので普段より幾分ラフな格好で出社すると、同じように出てきている人間がちらほらと見受けられた。
やり残していた仕事をしたり、取引についての資料を集めたり、新規開拓のための戦略を練ったり…、敏生は仕事を見つけてはそれに没頭した。
何かしていないと鬱々とした感情に蝕まれて、どうにかなってしまいそうだった。


ひとしきり仕事をした後、ひと休みしようとベンダーコーナーへと向かった時だった。そこにある休憩用の椅子に、独りで座っている古川さんを見つけた。


「古川さん」


挨拶をしようと、敏生は声をかけた。しかし、古川さんは宙を見つめ物思いに耽り、気づかない。

敏生は飲み物を買うと、何の気なしに古川さんを覗き込む。そして、思わず言葉を逸した。