けれども、もう〝傘を借りてたこと〟を口実に結乃を誘うことはできない。結乃は遠慮してるのに、今更もう一度誘うとしつこいヤツだと思われかねない。敏生は、これからどうしたらいいのか分からなくなった。


帰り際、ロッカーに立ち寄ると、ずっとそこにあった結乃の傘がなくなってしまっていた。

あの雨の日、結乃が差しかけてくれた傘。
二人で寄り添って歩いて紫陽花を見た。そして……、あの傘の下で唇が触れ合った……。

あの傘は甘い記憶に直結している、敏生にとって大事な存在だった。

結乃に傘を返す目的は果たせたが、敏生の中で結乃がもっと遠ざかってしまったような気持ちになった。