申し訳なさそうな声で発せられた結乃の返答。同時に、敏生の思い描いていた予想図がガラガラと音を立てて崩れてしまった瞬間だった。
「……あ、そっか……、じゃあ、またの機会に」
計画とは違う成り行きに思考が間に合わず、敏生はとっさに答えてしまう。すると、結乃はまた笑顔を作って首を横に振った。
「ううん。わざわざお礼なんてしてもらえるほどのことじゃないし、気にしないで。その気持ちだけで嬉しいから」
そう言うと、視線を和ませて敏生を見上げた。そして、頷くように目を伏せると、敏生の横をすり抜けて総務のオフィスへと入っていった。
敏生は、いきなり奈落の底に突き落とされたような気分だった。行くべき道が閉ざされて、途方に暮れる。
敏生は自分のデスクに戻っても、しばらく何も手につかなかった。けれども、デキる人間を周りは放っておいてはくれない。仕事は次々と押し寄せてくる。
「芹沢くん、ちょっと君の意見が欲しい」
課長から敏生が関わっていない案件について相談され、敏生はようやく普段の自分を取り戻した。



