「どうしたモブ。急に叫んで」
 総長がこっちを見た。
「だっ、だって、総長が今読んでいる雑誌
『バレンタインデー♡レシピ特集~好きな人に好きって伝えたい 』って記事のチョコクッキーのレシピページで……」
「だからどうした?」
「総長、バレンタイン、誰かに作ってあげるんっすか? も、もしかして、好きな人が出来、た?」
「おぅ」
 僕が質問すると、総長はちょっと気だるそうにそう答え、再び雑誌に視線を戻した。

 わぁわぁわぁ~!!

 総長の好きな人だと?
 しかも、総長がお作りになられたチョコクッキーを、受け取るのか?

 なんとうらやましい!

 その話を聞いてから僕は、眠れなくなった。

 総長、あなたは誰にチョコクッキーを作るの?
 そして、誰に、どうやって渡すの?
 気になる。そして、胸がざわめくの。

 ぽわわわわ~ん。

 胸に手を当てて目を閉じ、想像してみる。

 今回も想像が出来ない。

 今年のバレンタインデーは火曜日。渡すのは14日の火曜日かもしれない。
 でも総長の性格からすると、ギリギリに作ることはしないだろう。おそらく作るのは、日曜日。12日か……。

 よし、日曜日から尾行をしよう。

 当日。

 朝から総長の家の前に来て、電柱の陰にそっと隠れてみた。ちなみに総長の家、結構大きな家。

 総長、料理の材料買いに行くために外に出てくるのかな?
 あぁ、でも材料はすでに揃えてあるのが濃厚だな。

 とりあえず、待ってみよう。
 結構寒いから、手に息をかけて待っていた。

 いくら待っても出てこない。
 
 しばらく待っていると、チョコの香りが総長の家の中からほのかにした。

 ちなみに僕は嗅覚がすぐれている。
 うちで買っている犬、セントバーナードのボブちゃんほどではないけれど。

 きっとこの嗅覚は、総長をお守りするために神から与えられたものだろう。どうやって役に立つのかは未定だけども。

 リビングの大きな窓からそっと覗いてみようかな?

 ひょこっ。