「時田も絶対、雫に気がある。2課の人は時田が牽制して、あんたのところへ行かないようにしてるもん。知らないの?」
 そんなこと、知りたくもない。
 「色々、カスミに助けてもらって感謝してるよ。」
 「大学の人が忘れられないの?もう、大分経つでしょ。」
 大学の人か。私の最初の人。かっこよかったし、少し年上で頼れたし。でも……他の人にも優しくて。彼のバイト先の女の子が彼に夢中になっているのをわかっていて、私がいるのにもかかわらず平気でいた。自然消滅的な別れ。

 「それは、全然ありません。今言われるまで忘れておりました。」
 「じゃあ、なんで?誘われるでしょ、新田さんは?」
 「……うん。昨日今度飲みに行こうと誘われたけど、社交辞令かと……。」
 「そんなわけないじゃん。あのクラスの人だもん、女の子は選んでるよ。自分から声かけるなんて、あんまり見ないよ。寄ってくるだけで結構いるからさ。」

 そうねえ。新田さんはいい人だと思う。余計なことは言わないし、話してると楽しい。
 こちらの出方を見て、言葉を選んでくれる。大人の男?でもちょっと狼臭がする。怖いのよね。
 まあ、一度くらい飲みにいくのも悪くはないかもと、おとといまでの私なら久しぶりに思うところだ。

 おととい……亮ちゃんが現れた。

 私にとって、憧れの人とも言うべき人だった。
 思い出となって、素敵な箱の中に住んでいる人のはずだった。
 それなのに、お話して昔と距離感が変わらないと分かってしまった。