「思ってたより、手強いな」

空席になったテーブルの向かい側をボンヤリと眺めながら、余っていたハイボールを飲み干した。

麻友ちゃんが異動してきて、もうすぐ一年になる。

システム開発部には女性社員が少ないせいか、研修後に配属された部署で完全にお客様扱いされてなかなか仕事を覚えられず、このままでは使い物にならないと、厳しくて有名な森川主任に白羽の矢が立ったと聞いている。

潰れたら潰れたで事務方にでも回せばいいという上の考えが透けた異動だったが、予想に反して麻友ちゃんは、下手な男よりガッツのあるタイプだった。

異動して数ヶ月は失敗をする度に注意を受けては涙目になっていた麻友ちゃんが、いつの間にかひと通りの仕事をこなすようになっていた。

どこかそっけなくて、媚びない彼女は、今まで会った事のないタイプの女の子だった。

自慢じゃないが、俺はモテる。

その俺に話し掛けられても、良くて愛想笑い、悪ければいかにも鬱陶しそうな顔を隠そうともしない彼女の反応は、不快を通り越して愉快だと感じた。

計算や演技で気を引こうとしているのではなく、それが彼女の素の反応だったからだろう。

気付けば、麻友ちゃんをからかっては反応を楽しむのが仕事の息抜きとなり、日常になっていた。

そんな彼女の様子がおかしくなったのは、1ヶ月位前だった気がする。

何か考え事でもしてるのか、一点を見つめてフリーズしていたり、頭を抱えて何かブツブツ呟いたり、、完全に挙動不審だった。

そしてその頃からミスが目立つようになり、主任に(げき)を飛ばされては落ち込む姿を見るようになった。

仕事で行き詰まっているのか?それともプライベートで何かあったのだろうか?

心配して声を掛けても大丈夫だと突っぱねられて、強引に飲みに誘えば明らかに適当にでっち上げた相談で流されてしまった。

「くそっ」

自分のハイボールは既に空けてしまったので、麻友ちゃんが飲んでいた残りの酒に手を伸ばし、それをグッと煽った。

「甘っ!」

全然爽やかじゃないその酒は、凄く甘いが、思っていたより大分アルコールが強かった。

「はあー、麻友ちゃん、ちゃんと家に帰れたのかなー」

俺は多分、麻友ちゃんの事が好きなんだと思う。

そう言えば、これまで好かれる事はあっても、自分から好きになる事がなかった気がする。

だから俺は、好きな相手に振り向いてもらう方法を知らないのだ。