打合せの後で主任と田中さんが飲みに行こうと話していたが、動揺を隠し通す自信がなさ過ぎて、逃げ帰ってしまった。

徐々に消えると思っていた主任を好きだと言う気持ちは、今も消えずに残っている。

その感情はあまりにも自然に私に定着して、今日みたいな事がなければ、日常生活が(おびや)かされる事もない。

だから無理に消そうとはせず、大事に心の奥に閉じ込めておいたのだ。

とは言え、何年も前に振られた相手と顔を合わすのはさすがに気まずい、その相手を未だに想い続けているとなれば、尚更だ。

適当な所で仕事を終わらせた私は、帰宅途中に中華屋さんの前で足を止める。

主任の顔がチラついた後、お腹が空いている事に気付き、ラーメンと餃子が食べたくなって店に入る。

そこで私はまたしても幻主任と遭遇した。

幻主任は、何故か顔を耳まで赤くして、頭を抱えて悶絶していた。

どうした幻主任、一体何があったんだ!?

、、いや待てよ、私は今、シラフだぞ?

「主任?」

「佐々木!?」

「あ、もう主任じゃないですね、森川さん、どうかしたんですか?」

「いや、別に、どうもしない」

どうしよう、相席するべきなのか?

迷った末、隣のテーブルに座り、ラーメンと餃子とハイボールを注文した。

「佐々木、そっちに行ってもいいか?」

「え?あ、はい」

顔色を元に戻した主任が、席を移動してくる。

「久し振りだな、元気そうで良かった」

「森川さんも、、いつ帰国されたんですか?」

「ああ、もうすぐ3ヶ月になる」

「海外はどうでしたか?」

「大変だったよ、仕事はもちろんだがとにかく飯が合わなくて、油ものばかりで少し太った」

そう言いながら餃子を口に運ぶ主任は、確かに少し逞しくなったかもしれない。

「佐々木も頑張ってたんだな、凄く成長してて驚いたよ」

ああダメ、そんな優しい顔をして私に頬笑まないで、、

夢にまで見た主任が、今この瞬間、目の前にいる事が嬉しい。

やっぱり主任の事が好きなんだと実感する。

泣いてしまいそうだ。

どうしよう、、想いを口にしてしまいそうな自分を止める為、ハイボールをグッと煽る。

「田中さんの下でずっと勉強させてもらえたのが良かったんだと思います、田中さん、普段はチャラチャラしてるけど、仕事だけはできますもんね?」

空気を変えたくて、少し(おど)けてみせた。

「佐々木、、」

「はい?」

「俺はこの4年、辛い時にはいつもお前の事を思い出していた」

え?

「4年間、俺はお前のおかげで頑張れたんだ」

主任が何を言ってるのか、全く理解できない。

「帰国後、お前にまた会いたくて、この近所に家を借りた」

「今回の仕事も、外注先を選ぶ時、真っ先にお前の顔が浮かんだ」

え?え?ちょっと待って?

「久し振りに会ったお前がそっけなくて、心を(えぐ)られたような気分になったんだ」

主任の顔が、過去最高に赤くなっている。

「俺は、、お前の事が好きらしい」