動揺を隠しきれているだろうか。

新規案件の打合せの為に田中さんと顧客先を訪問したら、突然、私の目の前に主任が現れた。

確かに、チラッとは考えた。

でも、本当に主任がいるとは思ってなくて、どうしたらいいのかわからない。

うん、なかった事にしよう、目の前にいるのはただのおじさんだ、仕事しよう。

簡単に挨拶をして、ヒアリングを始める。

先方の要望をあらかた聞いて、ざっくりまとめ上げる。

「佐々木、今の時点で、何か提案したい事とかある?」

田中さんに意見を求められ、しばし考えをまとめる。

「今回の案件はDX推進の柱となる重要な物だから、予算をかけて素晴らしい物を作りたいとの事でしたが、、」

「先程の内容ですと、いまいち目的が達成できないような気がしなくもないと言うか、、」

「ん?どう言う事?」

「アプリを素晴らしい物にする為に、考えつく限りの内容を、可能な限り詰め込む」

「技術的にはできると思いますが、詰め込めば詰め込む程、複雑な物になりますよね」

「新しいアプリにバグはつきものとはいえ、複雑な物になると、必然的にバグの頻度は上がってしまいます」

「機能が多過ぎると操作も複雑になる為、ユーザーが実際に使用する際のハードルが上がる事も考えられます」

「ユーザーが実際に使って便利だなと思える物を提供しない限り、いくら予算をかけていい物を作っても、使ってもらえなくなる」

「使ってもらえなければ、市場拡大はおろか、当然の結果で、費用対効果も上がりません」

「DXの柱となるアプリで費用対効果を上げられないと、取り組み全体の失速に繋がり兼ねないですよね?」

「内外へのアピールと言う点においては、大々的にリリースする方が効果は高いですが、長い目で見て、まずは浸透率を上げる事を検討してみるのもアリかなと」

「第一段階として、必要最低限の機能を実装したシンプルな物をリリースする」

「バグの少ない環境でシンプルな操作性なら、多くの人が便利で使いやすいと思ってくれるはずです」

「ファーストインパクトでそう思ってもらえれば、そのユーザーはまたアプリを使ってくれますよね?」

「そして、ユーザーの意見を取り入れながら段階的に機能を充実させていけば、浸透率はそのままに、市場拡大も狙えるアプリが作れるかもしれない」

あ、まずい、喋り過ぎたか?

「あ!もちろん!当初の案で使いやすい物を作れるように努力するのも、私達の仕事です!」

お願い、誰か、何か言って、、

「あの、すみません、でしゃばり過ぎました」

これ以上ない位身を縮めて謝罪する。

「いや、佐々木さん、だったかな?君の意見はもっともだ、検討の余地は十分にあると思ったよ」

「そうだな、ふたつを並べてもう一度じっくり検討したい、ざっくりとした物でいいから、次までにまとめて来てくれるかな?」