定時を過ぎて、残っていた仕事を片付けてから、第二営業グループを覗きに行った。

まばらに残る人の中に、お目当ての人物を見つける。

「池田くーん」

ヒラヒラと手を振って声を掛けると、池田君が顔を上げた。

「あれ?田中さん?お疲れ様です」

胡散臭い笑顔を貼りつけた池田君が近付いてくる、、こうして改めて見るとイケメンだな、むかつく。

「仕事中にごめんね、まだ終わらない?」

「いや、もうほとんど片付いてますけど、どうかしました?」

「いやね、ちょっと池田君に聞きたい事があって、良ければ飯でもどうかなって思ってさ」

池田君は一瞬不審そうな顔をしたものの、すぐに笑顔を貼り直す。

「わかりました、大丈夫ですよ、準備してすぐ出るんで、エントランスで待っててもらえますか?」

せっかくだから少し飲もうと言う事になり、2人で駅前の居酒屋に入った。

「俺と佐々木さん、仲はいいですけど、本当にただの友達ですよ」

「池田君、無駄を省いてくれるのはありがたいけど、せめて酒が来るのを待っても良かったのでは?」

「でも、他に話す事なんて正直ないでしょ?」

池田君は不機嫌な様子を隠すつもりがないらしい、、さっきまでの笑顔は何だったのか。

「池田君は麻友ちゃんの事が好きなんだと思ってたんだけど、違うの?」

穏やかに話すのはもう無理そうなので、こっちも直球で質問をぶつけてみると、どうやら地雷を踏んだらしく、不機嫌さに拍車がかかり、暗黒オーラが立ち込めた。

「好きですよ?でも、佐々木さんが俺の事好きじゃなければ、いくら俺が好きでも、そんなの意味ないじゃないですか」

「いや、そんな事は、、」

「俺だって色々頑張りましたよ?でも佐々木さんが俺を好きになる事はなかった」

「だから諦めて友達になる事を選んだのに、牽制されるとか、はっきり言って不愉快です」

「この前佐々木さんが言ってた好きな人って、田中さんの事なんですよね?」

「え?」

「こういうの、死体撃ちって言うんですよ、マナー違反ですよ」

麻友ちゃんが言ってた好きな人、、

それ俺じゃない、、

「池田君、ちょっと待って、一回落ち着いてくれるかな」

この前主任がジョークを外して照れた時、麻友ちゃんが蕩けるような表情で主任を見つめていたから、思わず視界を遮ってしまった。

そして、主任を目で追う麻友ちゃんの笑顔がかわい過ぎて焦り、無理矢理彼女をその場から遠ざけた。

あんな顔をした麻友ちゃんを見たのは初めてで、誰にもその顔を見せたくないと思ったから。

だけど、次にその顔を見た時も、麻友ちゃんの目線の先にいたのは主任だった。

その表情が『好き』から引き出されている物だと認めたくなくて、俺は気付かない振りをした。

もし麻友ちゃんに好きな人がいるんだとしたら、それは主任だ。