佐々木さんは今、恋をしている。

そんな気はしていた。

そして、その相手は、俺じゃない。

それもわかっていた、わかっていたけど、目の当たりにするのは、やっぱりきつい。

元々自己肯定感が低い子だなとは感じていたけど、まさかここまで拗らせているとは思っていなかった。

彼女は一般的に美人と言われる部類に入るし、理系の大学じゃなくても多分モテていたと思う。

実際今の会社でも彼女に好意を持ってる人は多いし、大学時代の彼女のモテっぷりは常軌を逸していた。

彼女の中の『恋人』の定義が、お互いに好き合っている状態を意味しているらしく、4年間、数限りなく告白されていたにも関わらず、結局誰も彼女を射止める事ができなかったのは、大学でちょっとした伝説になっている。

当時と今を比べて、確かに雰囲気は少し変わったが、彼女が考える程の変化はないと思う。

彼女と接した事がある人なら、彼女の魅力は、容姿ではなくてその中身にあると気付くだろう。

言葉以上に多くを語るその表情は、何よりも素直でかわいらしいし、普段そっけないのに、ふとした時に見せるふわっとした笑顔は、多くの男達を撃沈させてきた。

一見空気が読めなそうなのに、実は争いを嫌って人一倍周りに気を使う彼女は、いつの間にか自我を押し殺すようになってしまったのかもしれない。

言われてみれば、以前は常に貼りつけていた愛想笑いが、最近減っている気がする。

彼女が思うみんなの理想の佐々木さんとは、あの愛想笑いの事なのだろうか?

だとしたら、それは彼女の魅力を半減させている。

最近の彼女がより好ましく感じられるのは、多分愛想笑いをやめたからだ。

彼女は、大学に入って人との関わりが増えた事で愛想笑いをするようになり、愛想笑いをしたから好かれるようになったのだと思い込んでいるのかもしれない。

この思い込みを正さなければ、彼女の恋は実らずに終わるのだろうか?

いや、もし終わったとしても、好意が俺に向かう事はないんだから、無意味だ。

俺は、彼女の一番の友達になると決めたじゃないか。

友達なんだから、幸せになる方法を、ちゃんと教えてあげなきゃな。

「佐々木さんは、愛想笑いが苦手だよね」

「え!?嘘!バレてた?うまくやれてると思ってたんだけどなー」

「あれ、できるだけしない方がいいと思うよ、ちょっと不細工になる」

「マジで?」

「マジで」

「あと、、俺も前の佐々木さんより今の佐々木さんの方が好きだよ、だから大丈夫、自信持ちなよ、それで精一杯頑張りな」